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「まさか洪水は起こらないだろう」
「ハザードマップで浸水は想定されてるが堤防が整備されているので被災することはないだろう」と思っている方はいませんか?そうした思い込みが油断を招きます。河川改修で安全が担保されるようになったと思っていても、実は河川洪水の危険性は去ってはいません。それどころか雨の降り方が変化していく中で危険度が増していく可能性があるのです。
堤防整備状況を見る
そもそも堤防整備が整っているという理解が正しくない場合があります。国が管理する直轄河川で堤防が川の整備計画通りに作られているかどうかを示す数字があるので次の資料をクリックして開いてみてください。
下はその資料から抜粋した近畿地方整備局管内の河川の例です。堤防が必要な区間(a)に対してその通りに整備されている区間が(b)、堤防の高さや幅が計画には足りていない区間が(c)、計画上堤防を作る必要があるものの現状で堤防がない区間が(d)です(図による詳しい説明は国土交通省の資料を参照ください(こちら))。
計画への達成度は中程の「(参考)b/a」に現れています。上の近畿地方整備局管内の河川の場合は、達成度が低い川(円山川14.0%)から比較的高い川(紀の川82.9%)まであります。あるべき堤防自体がない区間の割合は「(参考)d/a」であり、曲良川は42.7%にも達しています。
皆さんが洪水の影響を受ける河川堤防の整備率はどの程度だったでしょうか?
整備率が高ければよしではない
仮に整備率が高い場合でも洪水に対して警戒しなければなりません。温暖化で雨量が増えていく見込みの中では、これまでの整備目標としていた雨量がより頻繁に起きるからです。
例えば東京都を流れる荒川は200年に1度の雨に耐えられるように整備が進められていますが、温暖化の影響で100年後には関東地方では最大日降水量が1.1倍になると見込まれています。
この影響を加味すると、これまで200年に1度の雨と言われていたものが、100年後には120年に1度の規模で発生する雨となります。200年に1度の降雨イベントよりも120年に一度の降雨イベントの方が起こりやすいため、はん濫や浸水の頻度が増加する懸念が伝えられています(出典は国土交通白書(こちら))。
実際の河川の整備は計画通りに進んでおらず、平成19年度の段階では荒川は約30年に1度の雨までしか対応できませんでした(下図参照)。降水量が増加する中で整備レベルがそのまま維持されたと仮定すると、100年後には約20年に1度の大雨までにしか耐えられないことになります。
関東地方だけではなく、全国的に見ても温暖化がこのまま進めば降水量は増えていく見込みであることから(上図左)、頻繁に起こりうる規模の降雨で洪水が発生する未来が予測されているのです。
まとめ
防災の専門家である河田惠昭京都大学名誉教授はその著書『日本沈没』(朝日新書)の中で次のように述べています。
「新たな災害環境の下では、少しも安全になっていないどころか、危険になっていることに気が付かなければならない。対策を先送りしてはいけない。決して、国土交通省などの関係機関がさぼってきたわけではない。しかし、その変化に追いついていないのが心配である」(『日本沈没』P300)
河川堤防の整備率が高くないことや温暖化の影響を鑑みると、「河川は安全か?」という問いの答えは残念ながら「否」です。洪水がいつ発生してもいいように、被害拡大や浸水リスクを低減するハード面の防災と、防災情報の利用や早期避難体制の確立などのソフト面の対策を皆さん自身が取っておくことが何よりも重要となります。