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指定河川洪水予報の問題点
国や都道府県が管理する指定河川と呼ばれる川では、洪水が予測される場合に水位の予測が公表されます。それが指定河川洪水予報と呼ばれるものです(こちら)。指定河川洪水予報は次のような4段階で発表される情報です。

ただし段階的に発表されない場合もあるので注意
(出典:気象庁ホームページ(こちら)より)
氾濫が発生する前の段階でもっとも危険度が高い状態にあることを伝えるのが、「氾濫危険情報」です。この、「氾濫危険情報」が発表された際に見るべきポイントは何でしょうか?令和元年の台風10号の際に和歌山県を流れる熊野川中流(日足区間)を対象に氾濫危険情報が発表されましたのでそれを例に解説したいと思います。
まずは実際の氾濫危険情報がどのようなものかをご覧ください。PDFで公表される3ページに渡る文書です(リンクはこちら)。



氾濫危険情報から見るべきポイント
この氾濫危険情報から危険を判断するために必要なポイントを見ていきます。見ていただきたいのは主に2箇所あります。
1)この先の水位の見込み
まずはじめは氾濫危険情報の中にある水位の予測です。該当箇所を抜き出したものが次のもので、今後3時間程度の水位が数値とバーで示されています。

水位予測の情報から、(1)水位の上昇スピード、(2)超え方(少し超えるのか、大幅に超えていくのか)、(3)該当する場合は水位のピークを確認しましょう。氾濫危険水位は河川が決壊してもおかしくないとされる水位です。熊野川の例の場合は今後、氾濫危険水位を大きく超えていくことが示されており、大変危険な状態が目前に迫っていることが分かります。
2)河川が決壊すると浸水が予測される場所
氾濫が発生した場合に浸水が想定される地域もこの氾濫危険情報から確認することができます。該当する情報がこちらです。

(気象庁ホームページより転載)
浸水想定区域が示されますので、自らの地域が含まれる場合は浸水の深さや具体的な浸水予想の箇所をハザードマップと見比べて確認してください。

河川水位のリアルタイムデータも見る
さて、指定河川洪水予報では目先数時間分の水位予測しか確認をすることができません。熊野川中流を対象とした先ほどの予報の場合、12時までしか分かりませんでした。

12時を過ぎた段階で再度、洪水予報が更新されば良いのですが、運用面ではそのような方法が取られておらず、予測に関する情報は更新されないという問題があります。次に洪水予報が発表される段階は氾濫が実際に発生した際であるため、その予報の空白時間は自分で水位を見ることで埋めていくことが求められます。

(熊野川中流(日足区間)参照)
実際、熊野川の水位は12時以降も上昇を続け、どんどん危険な状態となっていきました(下図参照)。

自分で水位の状況を確認する際に参考とするのは、指定河川洪水予報の中で取り上げられた水位観測所の情報です。今回の熊野川の例では日足水位観測所が基準になっています。国土交通省の川の防災情報(こちら)で日足水位観測所のデータを確認したものがまさに上の図です。

行政からの避難の情報も遅い場合がある
熊野川の上昇を受けて浸水が想定される和歌山県新宮市がとった対応を見ておきましょう。新宮市は2019年8月15日の15時に避難準備・高齢者等避難開始、16時40分の段階で熊野川町全域に避難勧告(ただし土砂災害が対象)、同日18時に熊野川中流域に避難指示(河川の水位上昇のため)を発表しています。


水位が避難勧告発表の目安とされる危険水位を実際に超えたのは同日の10時前です。氾濫危険情報発表後、水位がどんどん上がっていく状況にあった中で、河川を対象とした避難指示のタイミングが夕方になってしまったのには検討の余地があります。行政からの避難指示などを待って行動しようと考えていたら対応が遅れかねない事例でした。
まとめ
指定河川洪水予報だけに頼っていては情報が更新されない場合に戸惑うこと、行政からの情報だけに頼るだけでは行動のタイミングが遅れてしまう可能性があることなどから、水位のモニタリングを実際に行いながら避難などの意思決定を行なっていくことが重要です。