このページでは、水害対策や気象情報の利用などに関する参考図書をまとめています。おすすめの本を選ぶ視点はただ一つで、「気象や災害についてど素人で自治体の防災対策を担っていた約20年前の自分が読んでいたら、それはそれは役に立っていたであろう本!」です。一言で水害対策といってもアプローチの仕方は様々ですので、下の分類に沿って書籍名をリスト化しました。順次更新していきます。
- 一般向けを意図してまとめられた読み物
- 主に気象学の視点から災害にアプローチするもの
- 主に河川工学や水文学の知見からアプローチするもの
- 過去の被災経験からアプローチするもの
- 主に防災や分野横断的な視点からアプローチするもの(準備中)
- 地理や地形面からアプローチするもの(準備中)
- 災害心理学の面からアプローチするもの(準備中)
- 災害情報からアプローチするもの(準備中)
- 企業や組織の危機管理からアプローチするもの
- その他
この記事の目次
1. 一般向けを意図してまとめられた読み物
命を守る水害読本 (毎日新聞出版)
近年発生した大きな水害を図や写真などを多用してまとめた「水害レポート」、気象のエッセンスを紹介する「気象の基礎知識」、地形に潜む危険の解説や気象・水位に関する情報をまとめた「豪雨に備える」、避難のタイプやタイミングなどについて解説を含めた「はじめての避難」、タイムラインなどの事例を取り上げた「減災への取り組み」という5部構成でバランス良。実用的な情報も多いことに加え、より専門的な本を読んでいく際の予備知識も得ることができる一冊となっている。
2. 主に気象学の視点から災害にアプローチするもの
気象災害を科学する(ベレ出版)
防災科学研究所で気象学を専門とする研究者がまとめた本。局地的な豪雨が発生する仕組みや、雨で斜面が崩れるメカニズムなどが比較的平易な表現で解説されている。気象観測の結果や気象予測などを防災の現場へどう応用するかという面にも言及がある。科学的な知識を踏まえて防災対策を考えていきたい方向けの入門書。
雲の中では何が起こっているのか(ベレ出版)
こちらの本はタイトルが示す通り、もっと「雲の中」に焦点を当てた本。第5章は「気象災害を引き起こす雲」についてまとめられており、竜巻、雷のほか、水害や土砂災害が発生する時に観測されるような集中豪雨、線状降水帯、局地豪雨、地形性豪雨がトピックとして取り上げられている。(文字が多くて字が小さい)気象学の専門書に進む前に読んでおいて損はない一冊。
気象防災の知識と実践(朝倉書店)
こちらは気象学の基礎知識があることを前提に書かれたシリーズの中の一冊。気象庁で危険度分布の元となる各種の指数や警報・注意報の細分化などに関わった方が著者。難しく感じる部分は飛ばし、防災の実務面ですぐに使えそうな知見だけを抜き出すように読んでいっても学べることは多いはず。特に気象庁が発表する情報の精度やリードタイムについてはぜひ押さえておきたいところ。例えば、気象庁は3-6時間のリードタイムが確保できるように警報を発表するとしている*が、「現状では、特に大雨に関する警報のリードタイムは平均すると1時間程度」(本文P147)と短いことがわかる。
3. 主に河川工学や水文学の知見からアプローチするもの
水害に役立つ減災術 -行政ができること 住民にできること-(技報堂出版)
豪雨や情報、洪水、避難行動などに関して46のトピックを立て、それぞれ数ページ程度で要点を解説していく本。堤防が破堤するプロセスや、破堤した後の水の流れ方など、気象関係の本だけではなかなかカバーされない分野もかいつまんで学ぶことができる。ただし発行年が2011年であるため、最近の防災情報の変化を踏まえた記述となっていないことに留意。
4. 過去の被災経験からアプローチするもの
ドキュメント豪雨災害-その時人は何を見るか(岩波新書)
2011年9月に台風12号によって発生した紀伊半島豪雨を対象としたルポルタージュ。この災害では最も多いところで2000ミリを超える雨量が解析され、土砂崩れや山ごと崩れるような深層崩壊も発生し、多数の人命が失われた。本書では、この災害がまさに起ころうとしている過程の中で、人々がどう対処したか、また、対処できずに災害に巻き込まれたかが紹介されている。台風は上陸すれば雨雲が減っていくはずという思い込みに反して大雨が続き、「これは何かがおかしいと感じ始めた矢先に、最初の人的被害が出てしまった」という自治体の防災担当の言葉は特に印象的だ(本文P16)。どういった気象情報を利用することでもっと早く異常に気づくことができるだろうか?どこに問題があったのかを問いながら、ぜひ本書を読み進めてほしい。
ドキュメント豪雨災害 西日本豪雨の被災地を訪ねて(山と渓谷社)
こちらは2018年の西日本豪雨に基づいたルポルタージュ。被災地の取材に当たった著者は「自分たちの町で災害が起こるとは想像もしていなかった…」と繰り返し耳にしたという。災害発生に至る過程では避難に関する情報や異常な雨となっていることを示す情報などが出されていたが、避難開始が遅れたり、「自分が危ないところにいる、危ないことをしている実感はなかった」ためにリスクのある行動をとったりした例があった。そうしたエピソードを被災者自身の声や行政の報告書などから拾い上げ丁寧に紹介している。そして筆者は、どうしたら人は避難することができるのかという答えを求め、災害心理学や気象学の専門家にインタビューを重ねていく。
9. 企業や組織の危機管理からアプローチするもの
重大事件に学ぶ「危機管理」(文春文庫)
初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏の著。危機管理や組織の意思決定の問題について考えることができる本。本書の中で氏は「非常事態が起きたとしたら、会議というものは始めるものではなく、逆に中止するものだ」と訴える。ではなぜ会議が優先されるのか?それは「『会議中です』のひと言が、あらゆるケースでエクスキューズになってくれるから」という氏の見立ては鋭い。河川の洪水が見込まれそうな時の対応も一刻を争う*。皆さんの組織はスムーズな意思決定ができるだろうか?