災害時に発表される情報の中には、本来であればすぐにでも決断し、対応を取っていくべきものがあります。ところが実際には危険を示す差し迫った情報が発表されても、各機関で少しずつ情報の扱いを検討するために時間がかかり、結果としてあったはずのリードタイム削られていく例があります。
2020年11月13日の河北新報の社説では、山形県で2020年7月に発生した記録的な豪雨の際の情報伝達が逃げ遅れ防止に役立ち、犠牲者が出なかったとしています。
山形豪雨犠牲者ゼロ/逃げ遅れ回避対策生かそう(河北新報)
https://www.kahoku.co.jp/editorial/20201113_01.html
しかし、当時の対応の中には様々な問題が隠れています。社説の中でまとめらた当時の時系列を抜き出したものが次のもので、かっこの中は筆者による問題点の指摘です。
・「国土交通省新庄河川事務所は正午、最上川が10時間後に氾濫危険水位に達する予測を出す」(最初に危険性がわかった段階でありここをゼロアワーと呼ぶこととします)
・「山形地方気象台長は午後2時50分から8つの自治体に、新庄河川事務所長は午後5時から6自治体の首長に電話でリスクを伝えて対応を求める」(ゼロアワーからすでに数時間経過しています。その間の時間は結果的に失われている状況です)
・「大石田町は午後6時10分に避難勧告、午後7時33分に避難指示を出す。それぞれ本来の発表基準より1時間40分、1時間早かった」(対応を前倒しできたとはいえ、ゼロアワーから6時間から7時間以上経過した段階でようやく自治体が避難を呼びかけ始めています。気象台から情報が入ったであろう時間からは数時間経過しています。それまで住民等は具体的な情報がない状態に置かれています)。
・「最初の氾濫は避難指示発表の4時間後にあたる午後11時50分であった」(ゼロアワーから10時間後、すなわち午後10時前後に氾濫危険水位というのが当初の予測でした。氾濫危険水位はいつ氾濫が発生してもおかしくない状態であるため、ゼロアワーの予測がだいたい正確であったことを示唆しています。住民等は避難勧告や避難指示が発表された夕方以降からの対応となり、午後のうちに決壊を見据えた対策を取っておく機会は悪く言えば与えられなかったとも言えます)。
この「成功例」に隠れている問題は、最上川が10時間後に氾濫危険水位に達する予測が出た直後になぜ各機関や一般住民を巻き込んで対応が取れなかったのかという点につきます。
結果的に人的被害はゼロにできたとはいえ、河川管理者や自治体などで少しずつ情報が止まり、それが積もり積もって避難の呼びかけが夕方以降になったという面を見逃してはいけません。決壊まで数時間しかないのか、それとも10時間あるのかでできることは変わるはずです。
このような時間的ロスが災害の場面ではしばしば起こるので、情報を使う個人の側としては、災害時に公的機関が発表する情報には様々な遅れを伴っている可能性を見ておく必要があると言えるでしょう。情報が出た時にはすでに遅いことすらあるため、行政からの情報を待って対応していてはいけないのです。
もちろん、情報を出す側には、大きな災害が見込まれそうな場合ほど自分の組織で貴重な情報を止めず、素早く、また広く情報を出していくことが重要な責務とであると言えるでしょう。