この記事の目次
防災情報に欠ける具体性
災害が迫った時に自治体や気象台、国などから発表される情報には具体性がかけたものが多く見られます。ここで言う具体性とは、「いつまでに」「何をすべきか」や「どの場所が影響を受けるか」といった情報です。
一つ例をみてみましょう。次の2つの図は国が管理する河川が増水した際に地域にエリアメールとして一斉に配信されるメールの文面です。
国は元々はこのようなメッセージを送っていました。
しかしこれが分かりにくいと言うことで、令和元年東日本台風の反省を踏まえ、「文章を簡潔にするとともに、重要な情報から順に記載」するとしました。改善されたものが次のものです(下図)。
では、改善後の警戒レベル4相当の中の情報を抜き出してみましょう。
氾濫のおそれ
警戒レベル4相当
多摩川で氾濫のおそれ
田園調布(大田区)付近で河川の水位が上昇、氾濫が発生する危険があります。自治体からの情報を確認し、安全確保を図るなど速やかに適切な防災行動をとってください。今後、氾濫が発生すると、避難が困難になります
情報から分かること・分からないこと
さて、この文面では、いつ危険になるか、どこが危険になるか、どういった危険に見舞われるか、何をすべきかは具体的に語られているでしょうか?
「いつ危険になるか」には言及がありません。今すぐの話なのか、それとも数時間という猶予時間があるのかが不明です。「どこが危険か」については「田園調布(大田区)付近」とあるので書かれているように見えますが、田園調布が出てくるのは河川の水位観測所がたまたまそこにあるためであり、ピンポイントで田園調布が危ないという意味ではありません。これは、田園調布の水位観測所が代表している上流・下流・対岸を含めた区間が危ないということを意味しています。
「どういった危険に見舞われるか」については、「氾濫の危険」と述べていますが、発生すると何メートルぐらいの浸水が発生するのか書かれていません。さらにその浸水深が発生すると何が起こるかも「避難が困難」以外には手がかりがない状況です。「何をすべきか」は「自治体からの情報を確認し、安全確保を図るなど速やかに適切な防災行動を」と述べていますが、これも具体性を欠いた記述です。
例えばアメリカなどで発表される情報の場合はもっと詳しく、さらに具体的な行動に結びつく情報が入ってくるのですが、日本の場合はなぜか危機を漠然と伝えるだけで終わっているのが現実です。
こうした欠点が含まれているのが日本の防災情報です。自治体の発表する避難情報の中には、避難勧告などを発表した事実と対象の地区だけしか伝えないものすらあります。
行政が発表する情報は具体性を欠くのでそれだけを使って適切な行動を取るのはかえって至難の技です。このため、個々人や組織のレベルで情報が利用できるようになっておく必要性があると言えるでしょう。