こんにちは。気象とコミュニケーションデザインの渡邉です。今回の記事は個人ではなく、団体や組織などで防災対応を検討される方に向けた内容です。
11月5日は「津波防災の日」でした。気象庁は今年から赤と白の旗を海で泳ぐ聴覚障害者用の避難サインとして導入し、その普及を図っています。一見すると「対策が進んだ。よかった」という話のように見えるかもしれませんが、人が旗を降る以外のやり方はなかったのかと立ち止まって考える必要はないでしょうか?

津波警報は地震発生から2分〜3分程度で発表される情報であり、発表前に津波が押し寄せることもあります*。
仮に津波警報の発表が津波の発生前に発表されたとしても、旗を降る人が発表を知り、旗を取り出して振るという行動を取るまでにいくらか時間を要するはずです。即対応できるようトレーニングをされていることとは思いますが、人が介在して伝えるステップには一定のタイムラグが発生するという前提でいなければなりません。その点がどう考えられているかという問題があります。
旗を降るライフセーバーの安全は十分確保できるのか/されるのかという問題も見逃せません。上の写真はイメージ写真であるのでこれを元に批判するのは酷かもしれませんが、大きな津波が発生すれば砂浜で旗を振る人も水にのまれ危険なはずです。もちろんこの点は気象庁も認識しており、津波フラッグの運用にあたっての留意事項として、津波フラッグの導入を決めた気象庁の報告書*では次のように述べています。
「津波警報等が発表された場合、海水浴場等においてこれを伝達する者(監視員等)も直ちに避難することが必要であり、「伝達ありき」ではなく状況に応じ対応すべきである」
しかし、この「状況に応じ対応すべき」というのが問題です。現場で旗を振る人の判断に任せるという程度の決めでしかありません。何を根拠にどう判断するのか、旗を振る前に逃げるべきではないか、いつまで旗を振り、いつ終わるのかなど一番厳しいところが現場に丸投げされたままです。
もし、あるライフセイバーが旗を最後まで振り続け津波で亡くなるということが起きればそれは美談ではなく、津波フラッグの対策にあらかじめ潜んでいた問題点が顕在化したということに他ならないでしょう。そうならないことを願っていますが、旗を振って知らせるという「対策」自体にはとても危ういものが潜んでいるのです。
今回は津波フラッグを例にあげましたが、水害など他の災害に対応する場合も同じです。防災対策を組む際には、人の判断や行動を出来るだけ伴わずに目的が果たせないか、また、人が介在しなければならない場合は運用にかかる時間や安全確保の面で十分考慮できているかといった視点からよくよく注意して進めていく必要があるのではないでしょうか。