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内水氾濫が発生しやすい場所
水は高いところから低いところに流れます。既存の排水システムで処理しきれないような大雨が降った場合には、周辺よりも低いところに水が向かい、住宅などに浸水被害が発生します。そのことが分かりやすい図が気象庁の資料の中にありましたのでご紹介したいと思います。
事例
平成17年(2005年)9月4日には、東京都23区西部を中心に集中豪雨が発生しました。1時間に100ミリ以上のクラスの降雨を伴いながら3時間程度その危険な状態が継続し、積算降水量は250ミリを超えたところもあります。
この集中豪雨では、川からの溢水(外水氾濫)や下水道で処理しきれない水が溢れた内水氾濫により、東京都中野区、杉並区を中心に都内で5000 棟を超える浸水被害(床上・床下浸水を含む)が発生しました(出典はこちら)。
被害が発生した場所の特性
この大雨により建物の被害が10棟以上となるか、水害の被害を受けた面積が0.1ha以上になったところを青色の点で示したのが次の図です(気象庁の資料(こちら)より抜粋)。標高差がカラーで表されており、周辺に比べて標高が低いところに青色の点がまとまっていることが見て取れます。
上の資料の中で内水氾濫による浸水発生箇所の地形として挙げられているのは次の2つです。
- 台地上を流れる河川や旧河道によって削られた谷地形の低地(谷底平野)での発生が多い。
- 台地上の微低地と思われる箇所も散⾒される。
これらの指摘は、周辺に比べて標高が低くなっているところで顕著な水害被害(青色部分)が発生しているということ意味しています。
内水氾濫で危険な谷地形
気象庁の同じ資料(こちら)の中では、先に紹介した東京都23区西部の大雨で内水氾濫が発生した地点を例に、「浸水害で命が脅かされる危険性がある場所」の例を挙げています。どちらも周辺よりも土地が低い、谷地形です。最初の例は狭い範囲内で顕著な谷がある例、2つ目の例はある程度の広がりを持った地域全体が周辺より低い谷となっている例です。
1. 顕著な谷(幅50m・高さ10m規模)
下の図で取り上げられている例では、徒歩圏内の中に深さ10m程度・幅50m程度の小規模な谷があります。
Googleのストリートビューでこのエリアを見てみましょう。左手側に谷が広がることが分かります。あふれ出した水が周辺部の高いところからそうした谷に流れ込んで被害が拡大したということが想像できます。
2. ある程度の広がりを持った谷(幅300-400m・高さ5m規模)
こちらは暗渠化された河川(田柄川)沿いに広がる谷地形で被害が出た場所の断面図です。幅が300-400mに渡っているので、先ほどのような分かりやすい谷ではありません。生活の中でなかなか高低差が実感しづらい谷です。しかし谷は谷であるので、周辺の土地の高い場所から水が集まり内水氾濫が発生しました。
暗渠は、もともと川や水路だったところに蓋をして閉じたものです。上の図の中で取り上げられている練馬区北町では田柄川の上は緑道として整備されています。そのGoogleのストリートビューでその緑道を見たものです。谷であることは一見して分かりませんが、見えない河川が溢れて被害が発生するリスクのある土地であるので、緑道沿いには水位を示す電光掲示板(田柄川幹線水位状況)が設置されています。
暗渠化された田柄川沿いを上流部から下流部にかけて写真で追った方のブログがインターネット上で公開されています(こちら)。「こんなところに川があるのか」という具合に街の風景の中に溶け込んでいるのでご関心のある方はご覧になってください。
まとめ
今回ご紹介したような資料を見ると、内水氾濫の地域的なリスクを調べるには地形を理解しておくと良いことが分かります。過去に内水氾濫が繰り返し発生している場所は谷地形であるかもしれません。内水氾濫については顕著な谷だけではなく、ある程度幅を持った谷にも気をつけていく必要があります。