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タイムライン防災とは
自治体や流域の関係機関を含めて防災タイムラインの整備が進みつつあります。防災タイムラインとは災害発生(もしくは台風の最接近など)をゼロアワーとして、そのゼロ時点に至る過程でいつ誰が何をするかを整理した行動計画です。国土交通省はタイムライン防災の旗振り役の一人で、特設ページを公開しています。その中に以下のような「大規模水害に関するタイムライン(防災行動計画)の流れ」という図がありますが、今日はこの図に書き込まれている防災情報に注目しながらタイムライン防災を導入する際の注意点についてまとめてみたいと思います。
情報の発表タイミングの想定と実際
河川に関する情報の発表時間
このタイムラインのイメージの中から防災情報が関係する部分を抜き出してみたのが下の図です。水位に関する情報に注目してみてください。18時間前から12時間前の間に氾濫警戒情報(氾濫警戒水位)、9時間から6時間前に氾濫危険情報(氾濫危険水位)、0時間に氾濫発生情報と示されています。氾濫危険水位はいつ災害が起こってもおかしくない水位です。
この図だけを見ると、「氾濫危険水位に到達した時点から氾濫が実際に発生するまでに6時間から9時間程度取れそうなのでその間に対処すれば良い」、「氾濫警戒情報から氾濫危険情報の間にも数時間あるので対応に当てられる」などと思われるかもしれません。しかしそうした思い込みは危険です。実際の水害ではそこまで時間が取れなかった例が少なくないからです。
事例1:平成30年7月豪雨の際の小田川
雨の降り方や流域の規模などにより水位の上昇スピードは変化しますが、河川水位が上昇してから洪水が発生するまで時間が短かかった例として平成30年7月豪雨の際に決壊した岡山県の小田川を挙げてみます。当時、小田川の指定河川洪水予報では次のような3つの情報が発表されました。
発表時間 | 情報名 | 概要 |
7/6 21:50 | 氾濫警戒情報 | 氾濫危険水位に到達する見込み |
7/6 22:20 | 氾濫危険情報 | 氾濫危険水位に到達。氾濫のおそれあり |
7/6 00:30 | 氾濫発生情報 | 氾濫が発生 |
7月6日0時30分に発表された氾濫発生情報をゼロアワーと考えてみましょう。そうすると、氾濫危険情報が出されたのは2時間10分前、河川の異常を伝える第一報として氾濫警戒情報が出されたのでもわずか2時間40分前です。
事例2:平成28年台風10号の際の十勝川水系札内川
平成30年7月豪雨は活発な前線によって引き起こされたので、国土交通省のタイムラインのイメージが前提としている台風とは少し異なると思われる方もいるかもしれません。そこで、台風で水位が急に上がった例も見てみましょう。取り上げるのは平成28年台風10号です。台風10号は東北地方に上陸し、岩手県・青森県上空を通過したのちに温帯低気圧に変わっています。
この台風では北海道の十勝川水系札内川で洪水が発生しました。当時発表されていた指定河川洪水予報の発表状況をまとめたものが以下の表です。実際の氾濫が発生した8月31日5時20分をゼロアワーにしてみると、氾濫警戒情報は2時間51分前に発表されていた事がわかります。このケースでは氾濫危険情報は発表されていませんが、別の資料(こちらです)を見ると氾濫危険水を超えたのは2時50分であり、ゼロアワーの2時間30分前でした。
発表時間 | 情報名 | 概要 |
8/30 16:31 | はん濫注意情報 | はん濫注意水位に到達。水位は今後上昇 |
8/31 2:30 | はん濫警戒情報 | 避難判断水位に到達。水位は今後上昇 |
8/31 6:21 | はん濫発生情報 | 氾濫が発生(実際の発生は5:20頃) |
まとめ
少ない事例ではありますが、ここまで必ずしも十分なリードタイムが情報によって提供されている訳ではないことを見てきました。タイムラインの説明資料などでは防災情報を使えば十分な時間が確保できるとされているものがあるかもしれません。そうした事が可能であれば良いのですが、実際問題としては想定よりも極めて短時間のうちに対応が迫られることもあると心得ておきましょう。
タイムライン防災を作成する際に、そうした理想的なリードタイム(情報を使えばだいたいこの程度の時間は確保できるだろうというというもの)を前提に行動リストを作っておくと、いざという時の展開の速さで戸惑ってしまう可能性があることに注意してください。
防災タイムラインを作る際には過去の出水状況を示す資料なども確認しましょう。そうした情報を見ると、その河川が最速でどの程度の速さで上昇しうるのかが見えてきます。最も速く水位が上昇した事例に基づきながらタイムラインとしてやるべき事を考えていったほうがより安全です。